ピティナ調査・研究

第70回 デオダ・ド・セヴラック『ショパンの泉』

今月、この曲
デオダ・ド・セヴラック『ショパンの泉』

ミュージックトレード社『Musician』2016年7月号 掲載コラム

楽譜画像

石笛をご存知ですか? 石に穴が空いていて、浜辺など自然界に在ります。それを吹くのは大変難しく、身体の力を抜き、自然と一体になるイメージで、ふ~っと息を吹きますと、石が響き音が鳴ります。上手く鳴った時は、石と共に自分の身体の細胞も一体となって響く感覚があります。ああ、自然と一体になるという感覚はこんな感じかしら、という不思議な体感があります。

この地球は水の星。空には雲、大地には海、川、湖、地下には地下水。そして大気にも水蒸気。濃度の違いこそあれ全ての生命は水の中で暮らし、水の中で呼吸しているともいえます。雨が降り大地の中を流れ、山から川へ、海へ、そして水蒸気となり空へ、そしてまた雨となり...この巡り巡る大自然の循環の中で、私たち人間も植物も動物も、体内に水を持ち生きています。響きが自然界から身体へと共鳴するのは当然ですね。文明が発達し、物質的な便利さ、一瞬で手に入る情報や伝達の便利さにすっかり慣れてしまった近年、大地の中で自然を感じる時間はこの上なく癒されます。

さて、ここまで文明が発達する前にも、都会で活動して名声を得ることよりも、「田舎の音楽家」と呼ばれることを好み、生涯の大半を故郷の農村地帯に生きた作曲家がいます。フランスのデオダ・ド・セヴラック(1872~1921)です。その才能は、ドビュッシーが「とても素敵な大地の香りがする」と高く評価した程で、セヴラックは故郷に徹底的に執着し、自然を土台にした美しい音楽をかき続けました。

梅雨が明けると夏本番。7月には海の日もありますね。海や川、水に癒されるシーンも増える夏。自然を感じながらセヴラックの水に因んだ曲は如何でしょう。その中で、《休暇の日々から》第2集『ショパンの泉』という曲をお勧めします。ショパンの香りを思わせる美しい調べを、自然と一体となり、ご自身の身体と心を癒す気分で弾いてみて下さい。流れ出す調べはきっと聞く人々の心と身体をも癒してくれることでしょう。

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